今回はリスクマネジメントの話を投稿させていただきます。
私が長年勤めていた積水化学では、2009年にリスクマネジメントPJを立ち上げました。その際に、20社ほどのCSR先進企業の担当者の方からリスクマネジメントの進め方をお聞きしたのですが、その中で特に印象に残った言葉があります。
それは、パナソニックでリスクマネジメントに携わってこられた方からお聞きした話なのですが、「曲突徙薪」(きょくとつししん)という言葉です。ある人が客人として訪れた家を見て、「煙突が真っすぐ家の上へ出ているので、煙突を曲げるか、薪を移すかをした方がいいですよ」とアドバイスをしたのですが、家の主人は「うるさいことを言うな」と客人の指摘を聞き入れませんでした。その後、その家が火事になったときに、髪の毛を焦がし額に火傷して消火を手伝った人には、ご馳走をして、もてなしたという話があり、未然予防する効果の大きさと難しさを的確に表現した言葉だと思っています。
その言葉を胸に、リスクマネジメントPJのメンバーは積水化学のERM(エンタープライズリスクマネジメント)を構築しました。その方法は、事業部または関係会社をRM単位と置いて、単位毎に毎年上位20個のリスクを特定しPDCAを回していくというものでした。ここが危険だよと第3者であるリスクマネジメントの担当者が指摘するのではなく、リスクを抱えているリスクオーナー同志(事業部や関係会社)が自分たちのやっているリスク対策を共有することで、相互啓発に結びつけていくことを狙って実施しました。2011年から始めて、15年経った今の積水化学を振り返ると、2000年頃に100人委員会を実施したときの状況から言えば、夢のような会社に変貌したと思っています。そのしくみを積水化学において作った上で、関係会社へ出向し現場のリアルなリスクと向き合いながら社員のリスク感性の向上に努めた経験を、今度は社労士として顧問先と一緒にGX経営として進めて行っているのですが、各会社での進め方はそれぞれの会社によって当然異なるものとなり、いろいろな発見の連続です。コンサルのような仕事を3号業務として社労士がする理由を聞かれたときには、「引き算のコンサルだからです」と答えるようにしています。会社の中で当然と思ってやっていることが、第3者から見れば無駄なこともあり、逆に「えっ!これやってないの?」ということもあって、それを第3者が指摘するのではなく、当事者同士が自ら気づく機会を作っていくことがとても重要です。
火事が発生したときの消火にかける労力と被害を考えれば、薪を移すことや煙突を曲げることであっても、遥かに小さい労力で済むことです。けれども、その労力を今の仕事に負荷をかけてやることになれば、それ以外の仕事が疎かになることもあるので、省ける無駄な作業を(ECRSの考え方も利用して)特定していくことが最も重要になります。担当者を置いてリスクマネジメントを始めると何か新たな対策を打とうとするのですが、それが、今の上場企業においてもERMが本当に機能しているとは言い難い遠因です。従来通り本社のスタッフ部門が縦割りにリスク管理せざるを得ない原因になっています。積水化学においても、自分の在籍時にはその問題は未解決のままでした。組織を新たな方向へ進めるときには、不必要な何か?を減らしていくことで、各自が必要だと思っている行動を増やすことができます。無駄だと思っていた作業を止めて、必要だと思っていた行動を増やすことができたとき、人の心は明るく変化します。逆に、自分では必要ないと思っている仕事をリスクマネジメントの名の下に増やされると、リスクマネジメントが嫌いになるのです。BCP(事業継続計画)のためにやれと言われて重たい気持ちになるのは、BCPの世界から離れてよくわかりました。
まずは無駄な作業を省くことから決めていくことが、実は一番大切なのだということを過去の関係会社での経験に加えて、今の社労士の業務を通して日々実感しているところです。社内の各スタッフ及び各現場の(業務としての)リスク対応の漏れ・無駄なダブりへ気づきを促し、会社の業務を効率的に回すためのリスクマネジメント上の課題に対して、コンプライアンスリスクへの対応も強く求められるようになった現在では、人事部門の役割はこれまで以上に重要になってきています。そして日々発生する大小様々なリスク対応も社員自身が自律的に対応できるようになれば、小さな火事であるとか、ボヤの消火に手を取られて忙しくなることも未然に防げるようになっていきます。現場がバタバタしている原因をみんなで話し合ってみると、組織の垣根や人の垣根を越えて対応すれば、もっと効率的に進める方法は見つかってくるものです。だからこそ、今のしくみに何かを加えるコンサルとしてではなく、社労士の3号業務として伴走型の「引き算のコンサル」を通して、顧問先様の成長に貢献していきたいと思っています。
無駄な作業は止めて、毎年、月毎にも変化していく様々なリスク対応を社員自身が気づき、組織として共有するようになるとその動きは全体へ波及し始め、組織は自律的に機能するようになります。詳しくは、以下のブログ記事もご参照ください。